デザイナーインタビュー Stephanie Phillips
Stephanie Phillips Ceramics. Image via @thedeastore
オーストラリア・シドニーを拠点に活動するStephanie Phillipsは、一つひとつ手仕事で花器やボウル、ランプを制作しています。彼女の陶芸作品を初めてみた時、”未来人が発見した土器”、という印象でした。その作風には、フォーククラフトの温もりと未来的な造形が共存する、独特の魅力があります。
民藝を思わせる素朴なフォルムやトーテム彫刻のような存在感、オーストラリアの森林に生息する植物の生命力から着想を得た造形も見られます。さまざまな文化やオーストラリアの豊かな自然からインスピレーションを受けながらも、その創作の根底にあるのは「実験を続けること」。既成概念にとらわれず、素材や形を探求し続ける姿勢が、Stephanieならではの唯一無二の作品を生み出しています。
Pearl Beach, NSW.
シドニー郊外で育ったStephanieは、幼い頃から祖母たちの影響を受け、ものづくりへの感性を育んできました。
母方の祖父母が暮らしていたのは、シドニーから車で約1時間半の場所にある海辺の町、パールビーチ。美しいビーチと手つかずの自然が残るこの土地は、多くのローカルオージーに愛される穏やかな場所です。
幼い頃は、祖母が保全活動に携わっていた国立公園の豊かなブッシュ(オーストラリア特有の森林や低木地帯)に囲まれて、しばしば休暇を過ごしました。自然の中で過ごした時間は、Stephanieに幼い頃から自然への深い愛情と敬意を育み、現在の作品づくりにも大きな影響を与えています。
一方、父方の祖父母はロシアからオーストラリアへ移住してきた移民で、Stephanieの創作活動の原点となる手仕事の楽しさを教えてくれた存在でもありました。
特に手先の器用だった祖母は、Stephanieが遊びに行くたびにクラフトの百科事典を取り出し、一緒にものづくりを楽しんだといいます。小麦粉でつくったクレイを使ってブローチを成形し、それに絵の具で色を塗り、最後にニスで仕上げる。そんな時間を重ねながら、Stephanieは自然と手を動かして何かを生み出す喜びを学んでいきました。幼い頃のこうした体験は、後に陶芸家として歩む彼女の創作活動を予感させる、原風景となっています。
オーストラリアは世界中から人々が集まり、多様な文化が共存する国です。そのため、さまざまな文化の影響を受けていますが、そうした多様性に加えて、この国ならではの豊かな自然が重なり合うことで、オーストラリアらしい独自の美意識が生まれているのではないかと思います。
'push me pull you' by Stephanie Phillips
訪れた転機、陶芸の道へ
これまで、ステファニーはガラスアート、モザイク、テキスタイルデザイン、プリントなど、実にさまざまな表現方法を探求してきました。
卒業後は、ビジュアルマーチャンダイザー(VMD)や映画のセットデコレーターとして活躍し、『マトリックス リローデッド』や『ムーラン・ルージュ』といった大作映画の制作にも携わっています。そしてある日、陶芸との出会いは思いがけず訪れました。友人が陶芸教室に通っていると話した瞬間、ステファニーの頭にふと浮かんだのは、
「陶芸だ! 私が本当にやるべきことは、これだった。」
という確信でした。さまざまな手法を試しながら、自分に合う表現を探し続けてきた、アーティストとしての長い旅路。その末に訪れた、陶芸家として生きる決断は、彼女の人生において新たな実験の始まりでした。
Inside OURSIN. Image via @oursinparis
Stephanieが陶芸家としてのキャリアをスタートした当時、彼女の周りの陶芸家の多くは、ろくろを使った小ぶりな作品を制作していましたが、Stephanieは、あえて、オブジェクトやアートピース要素が強い、スケールの大きな作品に取り組むという独自のスタイルを選びます。この実験的なアプローチが注目され、2019年には、パリ・デザインウィークへの出展に招かれました。「1000 Vases」展に出展していた際には、ファッションデザイナーのSimon Porte Jacquemus (サイモン・ポート・ジャックムス)の目に留まり、展示していた作品すべてが、彼のパリのレストラン「Oursin(ウルサン)」のために購入されました。
これは陶芸家としてのキャリアにおける忘れがたい最初の大きな成功であり、グローバルに活動するきっかけの最初の1歩となりました。創作活動を始めて約10年が経った今もなお、Stephanieは「実験を通して発見する」という哲学を大切にしながら、ものづくりを続けています。
私が大切にしているのは、立ち止まらずに、とにかくつくり続け、挑戦し続けること。そして、失敗から学ぶことです。むしろ、一番良いものは失敗から生まれることがよくあります。
Marcello Fantoni Vase
制作プロセスについて尋ねると、Stephanieは「あまり考えすぎず、まずは創作に取り掛かること多いですね」と話します。
完成形のサイズやフォルムを細かく決めることはほとんどなく、は丸いベースをつくり、そこから素材が導くままに形を育てていくのだそうです。
制作を進めるなかで、Stephanieがこれまで触れてきた多彩なインスピレーションは、ごく自然に彼女の手を通して作品へと表れていきます。1960〜70年代のイタリアやフランスの陶芸が持つ大胆な造形から、日本のいけばな花器に見られる繊細で静かな美しさまで。そうしたさまざまな影響が、有機的に溶け合いながら作品に息づいています。
Image via @stephanie_phillips_ceramics
成形作業が終わると、次に、作品の表情を決める釉薬(ゆうやく)を使った仕上げ工程に映ります。Stephanieは、用いる釉薬のほとんどを彼女独自のレシピで作っています。それは色味も質感も実に幅広く、深みのあるマットな青色から、光を映し込むような艶やかなブロンズまで、多彩な表現を生み出しています。
Stephanieも特に気に入っている仕上げの一つが、砂のような豊かなテクスチャーを持つサンドグレーズです。
この釉薬は、意外にも失敗から生まれました。あるとき、Stephanieは誤って粒子の粗さ(メッシュサイズ)の異なるシリカサンドを購入してしまいます。しかし、その予期せぬ出来事をきっかけに試行錯誤を重ね、粗い砂粒を釉薬の中で安定させる技法を確立しました。
オーストラリアのビーチの砂浜を混ぜた釉薬は、焼き上がるとザラザラとしたあたたかみのある質感、表面の粒子が海の煌めきのような輝きを生み出し、Stephanieが育ったオーストラリアの静かなビーチタウンを想起させます。
写真は、今年の6月、日本を旅行していたStephanieがJAUショップを訪れてくれた時のものです。
最近の創作活動や日本滞在中に訪れたギャラリーなど
また鮮やかなネオンイエローにひび模様(クラックル)が施された、新作のインセンスホルダーをいち早く見ることができ、とても印象的な時間となりました。
実験をキーワードに彼女が生み出す作品は、いつも私たちに新たなインスピレーションを与えてくれます。そんなStephanieの作品を、日本の皆さまにご紹介できることを心から嬉しく思っています。
作品に関するご質問やお問い合わせがございましたら、どうぞお気軽にJAUまでご連絡ください。


